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鉄道員(ぽっぽや)の祈り

鉄道員(ぽっぽや)の祈り 台本ver4
2023年7月8日初演
作:舟橋俊久
主な出演者:ウラン、正平、地の文、天の声

寂しい汽笛(が聞こえてきた)
作詞:舟橋俊久 作曲:Hank Williams and Jimmie Davis (1951)
(前奏)ハーモニカ
1.
果てない線路を 歩いてきたのさ
与那原駅から 那覇へと向かう
寂しい汽笛が 聞こえてきたのさ
遠くで誰かが 泣いてるようだ
 あの娘と 別れてきた
 家も出てきたよ
寂しい汽笛が 聞こえてきたのさ
はぐれた子猫が 泣いてるようだ
2.
賢く振る舞う 暮らしに疲れて
大里駅から 宮平あたり
寂しい汽笛が 聞こえてきたのさ
走るはずのない 燃えた機関車
 若すぎて 恐れも知らず
 君を連れ去ろうと
寂しい汽笛が 聞こえてきたのさ
はぐれた子猫が 泣いてるようだ
(間奏)
3.
体は動かず 髪も白くなり
南風原駅まで たどり着けるのか
寂しい汽笛が 聞こえてきたのさ
線路の脇には 昼顔の花
 疲れた 心に浮かぶ 
 あの娘のこと
寂しい汽笛が 聞こえてきたのさ
はぐれた子猫が 泣いてるようだ
はぐれた子猫が 泣いてるようだ
(終奏)

天の声:天の声です。きょうは三題噺を作ってもらいます。今回はURLを頭文字とする三つの言葉を使ってお話を作ってください。
地の文:はい、それでは、Uはウラン、Rはレール、Lはラブとします。
天の声:全部カタカナですねー。まーいいでしょ。
ウラン、レール、ラブの三題噺を聴かせていただきましょう。

地の文:かつて沖縄に鉄道があったことはあまり知られていないかも知れません。戦前のことです。当時の鉄道省に見放されていた沖縄県では、国鉄が来ることもなく、独自にレールを敷くしかありませんでした。
県営鉄道の創業は大正3年(1914年)でした。電車ではなく蒸気機関車がけん引する列車で、レール幅の狭い軽便鉄道規格ではありましたが、客車も貨車もあり、一部ではガソリンカーも使われていました。
沖縄県営鉄道は那覇駅を起点に伸びる、3路線、すなわち嘉手納線・与那原線・糸満線、そして那覇駅から那覇港桟橋にいたる貨物専用線がありました。
総延長は48キロメートル。機関車12両、ガソリンカー6両、客車52両、貨車51両。
従業員数は300名を超え、年間乗客数は昭和16年の時点で300万人を超えていました・・・。このお話はその昭和16年に始まります。
唐突ですが、ここで、ウランちゃんが歌います。


前奏:ギターでゆるーいループを作る。
(ギターを置く)
(パーカッションを入れる)

(ループにのせてウランが歌う) CAPO3(キーEb)
与那原から 那覇まで    C G11 F/C
ケービン鉄 道で通う    C Dm7 Am7 F/C
一番列車 で 行くの
部活の朝 練があるの
最終列車 で 帰るのよ
それまでキオスクでバイト
間奏:ハーモニカあるいはハミングで
与那原から 那覇まで
ケービン鉄 道が走る
一番列車 は きょうも
忙しいひ とでいっぱい
最終列車 で 与那原へ
くたくたに疲れてるの

(ループに載せてセリフ)
地の文:いまウランちゃんが歌ったのは「与那原から 那覇まで」という歌です。この歌の元歌(メロディー)は「ポンタ・ジ・アレイア」。ブラジル人のミルトン・ナシメントが作りました。(明るく)ウランちゃん、ありがとう。
ウラン:あのー、あなたは誰ですか。
地の文:ウランちゃん、いい質問だね。わたしは「地の文」です。君たち二人の恋愛を上の方から俯瞰していきます。私は第三者です。よかったら「第三の男」と呼んでください。(「第三の男」主題歌のメロディーをくちずさむ)
(急に)私のステータスは2です。あなたのステータスは3、正平くんはステータス1です。
ウラン:二人の恋愛?俯瞰??ステータス?? なんか難しそう???
ま、いっか。
地の文:今度は正平くんが歌います。「与那原行きの最終列車」
(ループを止める)
(ギターを持つ)Capoなし

(正平が歌う)
毎朝乗るのは 那覇行きの列車        G7 G7
デッキであの娘は 今日も本を読んでいる   G7 G7
オーノーノーノー オーノーノーノー     C C
仕事をしてても 身が入らないよ       G7 G7
あの娘の姿が 忘れられない 毎日      G7 G7
オーノーノーノー オーノーノーノー     C C
今夜こそ 打ち明けるぞ           D D
                      G7 F7 G7 F7
(ループをスタート)
<二人の会話1>
(ループに載せてセリフ)
正平:こんばんは。
ウラン:こんばんは、お客様。ウランジュースは、いかがでしょうか。
正平:はい、ウランジュース一つください。
あの、はじめまして。ぼくの名前は喜納正平、軽便鉄道の職員です。鉄道員「ぽっぽ屋」ですね。
ウラン:へー。「ぽっぽ屋」っていうとなんか雪が降っている感じがするー。沖縄なのに雪が降っているって変な感じなんだけど、とにかく言葉のイメージひとつで雪を降らせちゃうんだから「ぽっぽ屋」って映画、すごいよね。
正平:はあ、そうですか。そうかも知れませんね。あのー、当時の人はこんな喋り方しなかっただろうし、そもそも共通語じゃなくてウチナーグチかも知れないけど、方言札とかでウチナーグチが制限されていた時代もあったので、なんとも言えません。
この話はほとんど嘘というかフィクションなのでそのつもりで聴いてください。
ウラン:あのー。あなた。お客様。誰に向かってしゃべってるんですか。
ともかく、あなたが「ぽっぽ屋」、鉄道員ってことは分かりました。
でも高倉健には似てないわね。もちろんピエトロ・ジェルミとも違うし。
あ、イタリア映画の方の「鉄道員」ね。あのちっちゃい子が可愛かったなぁー・・・。(夢見るような目つきになる)
(はっと気づいて)
私の名前はウラン。変わった名前だけど、気にしないで。
ウランちゃんもね、戦前の沖縄でこんな喋り方はしないかも知れないけど・・・、フィクションなので、(明るく)よろしくお願いしまーす。
正平:はい、高倉健は駅長だし、ピエトロ・ジェルミは機関士。同じ「ぽっぽや」でもかなり違うんです。ぼくは研究職で、専門は電気。
それで仕事だけじゃなくて趣味も鉄道で、「呑み鉄」でもあるんです。那覇の事務所から与那原まで帰る列車の中で泡盛の三合瓶を飲むのが一番の楽しみなんです。というわけで、そこの泡盛もください。
ウラン:ふーん。だったら正平じゃなくて精児なんじゃないの。
『乗り鉄、撮り鉄、いろいろあれど、我が鉄道の旅は「呑み鉄」なり…』ってね。
「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」。
正平:はい、確かに火野正平は「にっぽん縦断 こころ旅」。『下り坂、最高ー』です。
でもぼくは火野正平ではなくて喜納正平。民謡歌手の喜納昌永はぼくの兄なんです。「ハイサイおじさん」の喜納昌吉はまだ生まれてないかも知れないけど、昌吉から見るとぼくはおじさんにあたります。
ウラン:ふーん、喜納昌永は与那原じゃなくて北中だったんじゃないかな。知らんけど。
正平:北中って北中城村のことですか。日本でいちばん人口密度が高い村。中城村と仲が悪い。
ウラン:えっ、うん。まあそう。だけど正平も精児も、どっちもしょっちゅう旅が出来ていいわね。私なんか、毎日、与那原と那覇の往復だけで退屈しちゃう。
昼は高校、しかも女子高なんだよねー。夜は那覇駅のキオスクでバイトでしょ。休みの日も家業の瓦作りの手伝いだし・・・。
正平:ウランちゃん、帰りはいつも最終列車だよね。この時代には最終列車はあまり混んでいない。よかったら、ぼくといっしょに与那原まで帰らないか。お茶でも飲みながら。

(正平が歌う)
与那原行きの 最終列車         G7 G7
向かい合わせだよ 二人のコーヒータイム  G7 G7
オーノーノーノー オーノーノーノー    C C
仕事をしてても 帰りが楽しみ       G7 G7
残業なくても 最終列車まで待ってる    G7 G7
オーノーノーノー オーノーノーノー    C C
今夜もあの 娘とデートさ         D D
G7 F7 G7 F7
(ループを作る)
Do do do do do do do do do do do do do do do do
Do do do do do do do do do do do do do do do do

(ループに載せてセリフ)
地の文:いま正平くんが歌ったのは「与那原行きの最終列車」という歌です。元歌(メロディー)は「恋の終列車」。1966年アメリカのグループ、モンキーズのデビュー曲です。元メンバーのミッキードレンツによると兵役に行く男の歌だそうです。あのモンキーズのデビュー曲はプロテストソングだったことになります。
正平くん、ありがとう。
(ループを止める)

(三線をとる)
(浪花節)
正平とウラン、二人の会話はいまひとつーーーかみ合わない、
かと思ったらかみあってしまい、話がはずみ、とーっても「いい感じ」でーーーーあります。
二人の間に芽生えかけた恋は、恋とは、恋とはどんなものなのかーーーー、
昭和生まれのあなたには、あなたになら分かるーよーねー。
(三線でループを作る)
(しゃべり)
恋とは何か、愛とは何か。女性の方たち、ぜひ確かめてください。僕の心を。
もう一度言いましょうか。僕が感じていることを。
初めてのことで、うまく理解ができないのです。
愛情は感じています。もちろん欲望にも満ちています。
でも今は、それが喜びであると同時に苦しみでもあるんです。
分かるかな。時代は「いやな感じ」なんです。
そう、昭和16年12月7日には太平洋戦争がはじまります。時代はまさに「いやな感じ」だったのです。
(三線をおく)

(ループスタート)
<二人の会話2>
(ループに載せてセリフ)
正平:ウランちゃん、最近いま一つ元気がないね。
ウラン:うん。わたしの寝室、2階なんだけど、窓からとなりのうちの男の子の部屋が見えるの。窓と窓が向き合っているのね。
正平:いつかの朝ドラみたいだね。
ウラン:私はこっそりと隣の男の子をスパイしてた。ま、のぞきともいうけどね。それがお母さんに見つかっちゃったのね。罰として平日の登校やバイト以外は外出禁止。友達に電話することもできなくてつらいの。
正平:携帯電話はまだないんだよね。
ウラン:この時代に携帯電話はまだないから、ない。
正平:そっか。寂しいね。ぼくにも悩みがあるんだよ。聞いてくれるかな。ぼくには大きな夢があるんだけど、その夢に向かって勉強する時間が足りないんだ。今にも戦争が起きそうな雰囲気の中で勉強なんかしてると白い目で見られる。特にいまの上司はぜんぜん理解がないし。
ウラン:あなたも毎日、遅くまで残業でたいへんね。それで、そのあなたの夢って何なの。まだ聞いてなかったわよね。
正平:うん。僕の夢はねえ。ケービン鉄道を電化することなんだ。まずは与那原線からね。
ウラン:電化って、電気で走る鉄道にするってこと?
正平:そう。ケービンは石油を燃やしてできる蒸気でエンジンを回して走る。
チッタンガラガラ、チッタンガラガラとね。機関車、ロコモティブだよね。
ウラン:「ロコモーション」という歌があったわね。踊りも。
正平:うん、歌や踊りは楽しいんだけどね。蒸気機関車は空気を汚すからあまりよくないんだ。
ウラン:でも電気だと、発電する時に空気を汚すんじゃないの。
正平:そこなんだよ。だから空気を汚さないで発電するクリーンエネルギー。そこがポイントなんだ。
ウラン:ふーん。難しそうね。

(三線をとる)
(ループストップ)
(浪花節)
夢や悩みをーーーー語らい合って、分かち合い。
打ちひしがれて泣いた日も、なぐさめあって立ち直るーーー。
二人の関係はー~。
とてもナイス、とてもグッド、とてもよろしいんじゃないでしょうか。

(リズムボックススタート)
(おてもやん)
とてもやーん、あんたこの頃、嫁入りしたではないかいな
川端町っつあん きゃあめぐろ
げんぱくなすびの いがいがどん
一つ山越ぉえーーー も一つ山越え あの山越えて
私しゃあんたに 惚れとるばい
惚れとるばってん 言われんたい
一つ非常ーーー時 艱難辛苦の荒波越えて
悩みなんぞは こちゃ知らぬ
アカチャカ ベッチャカ チャカチャカ チャー

(ルーパーを使った言葉遊び)
チャカチャカ チャー
ひばり(雲雀)の子

(リズムボックスFO、ストップ)
(パーカッションのループを作る)

地の文:とてもいい感じの関係を築いていた二人でしたが、二人が浮かれて気づかないうちに開戦した太平洋戦争は、どんどん悪い方向に転がっていきます。ケービンは県営鉄道でしたが、残念ながら国営になることもなく、嘉手納から名護への延長計画も止まったままでした。
そんな弱体化したケービンが、こと戦時下の軍事輸送にあたっては大活躍をすることになります。昭和19年7月9日には満州から上陸した通称武部隊約2万人の大軍団をケービンが輸送しました。そして、これ以降、通称山部隊1万5千人、石部隊1万1千人を輸送し、大量輸送・定時輸送という鉄道の特色をいかんなく発揮しました。その一方で、ケービンは公共交通機関としての役割を終えることになってしまったのです。
正平とウランは軍事輸送の合間を縫ってひっそりと走っていたケービンに乗って何とか那覇まで通っていました。ダイヤもなく不定期な運航でしたが二人にとっては夢の時間でした。しかし、昭和19年10月10日の那覇大空襲はケービン鉄道のかなめである那覇駅を一夜にして灰にしてしまいました。与那原駅も大打撃を受け、二人はこれまでのようには会えなくなりました。
(パーカッションのループFO、ストップ)
(バックトラック・スタート)

(カラオケに乗せて正平が歌う)
(歌:「与那原駅のホームから」) Capo3 C (Key:Eb)
与那原駅の 片すみに   C/G Am F/G C/G
昼顔の花 咲いていた   C/G Am F/G C/G
朝のひかりの その中に   C/G Am F/G C/G
ほほえむ君の 顔を見た   C/G Am F/G C
窓から見える 赤瓦   C/G Am F/G C/G
真っ赤な嘘で おおわれて   C/G Am F/G C/G
街はいつでも 知らんぷり   C/G Am F/G C/G
心の中は がらんどう   C/G Am F/G C
Ride on the M-train   C/G Am
Ride on to the train  F/G C
Ride on the M-train   C/G Am 
Ride on to the train  F/G C
与那原駅の ホームから
あの娘の影が 消えてゆく
与那原駅の ホームから
あの娘が空に 消えてゆく
くずれて散った 赤瓦
白いがれきに おおわれて
ほこりの中で もがいてる
心の中は 何もない
Welcome Mr. Coltrane
Welcome to the sun
Welcome Mr. Coltrane
Welcome to the sun

(ループにのせてセリフ)
地の文:街が空襲で破壊されても、ケービンは走っていました。夜中にアフィーという汽笛が聞こえるのです。鉄道は長い線です。レールも狭く車両も軽いケービンは、比較的簡単に修理ができるため、与那原線の中でも途中のどこかでひそかにケービンは走っていたようです。
アフィーッ、アフィーッ。
眠れない夜中にふと部屋の窓をあけると、正平の耳にはケービンの汽笛が鳴っているのが聞こえてきたのです。
正平:那覇駅や与那原駅が焼けてもケービンは走っている。
アフィーッ、アフィーッ。
機関車が焼けても。ガソリンカーが焼けても、ケービンは走っている。

(終奏)ベースパターンのループにのせてsaxソロ
(フェイドアウト)

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